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広島高等裁判所岡山支部 昭和32年(ネ)70号 判決

岡山県英田郡西粟倉村大字影石二二五番地

控訴人

福島昇治郎

右訴訟代理人弁護士

河原太郎

同県英田郡美作町

美作税務署長

被控訴人

藤田尚

指定代理人 西本寿喜

加藤宏

米沢久雄

笠行文三郎

森田政治

田原広

常本一三

右当事者間の昭和三十二年(ネ)第七〇号所得金額更正の取消請求控訴事件に付昭和三十二年九月二日終結した口頭弁論に基き次の通り判決する。

主文

本件控訴を棄却する

控訴費用は控訴人の負担とする

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、本件を岡山地方裁判所に差戻す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。当事者双方の事実上の主要ならびに立証は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

控訴人が、昭和二十四年一月三十一日附で、被控訴人に対し、昭和二十三年分所得税に関する総所得金額を、金十六万三千四百五十七円と確定申告をしたところ、被控訴人において、昭和二十四年二月二十八日附で右所得金額を、金五十万二千三百四十五円に更正し、その旨を同年三月四日控訴人に通知して来たが、これに対し控訴人は審査の請求をしなかつたこと、その後、被控訴人は、昭和二十五年十二月二十四日、控訴人に対し同月二十三日附の昭和二十三年分所得税確定納税額更正決定通知書と題する書面で、右所得金額を金三十六万六百十七円と更正する旨の通知をなし、これに対し、控訴人は昭和二十六年一月十日審査の請求をしたが、その後三ケ月を経過するも、何ら審査の決定をしないことは、就れも当事者間に争のないところである。

被控訴人は右昭和二十五年十二月二十三日附でなした処分は、昭和二十四年二月二十八日附でなした更正処分の誤謬を訂正し、その一部を取消した減額処分であつて、新たな独立した更正処分ではないから、不服申立の対象となるものではなく、不服の対象となるものはその原処分である昭和二十四年二月二十八日附の更正処分であるところ、右処分に対しては、法定の期間内に控訴人から審査の請求がなくして確定しているものであるから、本訴は不適法として却下せらるべきものであると抗争するので、先ずこの点に付審按する。

所得税法(昭和二十四年法律第七六号による改正前のもの、以下同様)の規定するところを見るに、納税義務者から確定申告が提出せられた場合に、その申告書に記載せられてある所得金額等について、政府の調査したところと異るところがあるときは、政府はその調査したところによつて、その額を更正することが出来、右更正後、その更正した所得額等について脱漏があることを発見したときは、更にその額を再更正することが出来、これらの処分に対して不服のある納税義務者は、一ケ月以内に審査の請求が出来る旨規定してある。(同法第四十六条第四十九条)、これよりすれば、再更正処分は更正処分による所得額等を更に増額する場合にのみこれをなすことが出来るのであつて、これを減額する再更正処分というものは、あり得ないものといわなければならぬ。而して本件においては、控訴人が昭和二十三年分の所得額を金十六万三千四百五十七円と確定申告したのに対し、昭和二十四年二月二十八日附でこれを金五十万二千三百四十五円と更正したが、其の後昭和二十五年十二月二十三日附で更にその所得額を金三十六万六百十七円と減額変更したものであつて、しかも成立に争のない甲第三号証、乙第一号証、及び原審証人金谷定重の証言を綜合すれば、控訴人は前記昭和二十四年二月二十八日附の更正処分を受けたけれども、これに対しては所得税法所定の審査の請求をなすことなく、口頭で右更正処分の減額方を再三懇請した結果、被控訴人において適式の不服申立ではないけれども、好意的に再調査し、誤謬があつたとして右の如く任意減額したもので、その旨を控訴人に通知するに当り係員が誤つて更正処分の通知用紙をそのまま使用したものであることが認められるから、右減額処分は所得税法に所謂独立の再更正処分ではなくして、その実質は昭和二十四年二月二十八日附でなされた更正処分の一部訂正取消に外ならず、右更正処分と一体をなして当初から右の様に減額訂正された内容の更正処分があつたと同様に取扱うべきものと解すべきである。しかも右のような減額処分により納税義務者は、少くともその納付すべき所得税額に関しては、むしろ有利であつて、特に不利益を受くものとは言い得ない点よりしても、右のような減額処分は独立して不服申立の対象とはならず、その原処分である更正処分と一体をなしてのみ不服申立の対象となるものというべきである。

従つてその原処分である更正処分に対して不服申立をなすことなく法定の期間を経過しているときは、もはや後に減額処分があつたことを理由に新に不服の申立をなすことを得ないものというべく、そうでないと原処分である更正処分に対しては不服申立をしないで確定せしめて置きながら、その後たまたま右更正処分よりも減額された有利な処分を受けたことに対して不服申立をなし得るという不合理を生ずる結果ともなるのである。

本件においても、原処分である昭和二十四年二月二十八日附更正処分に対しては、法定の期間内に控訴人から審査の請求がなされなかつたことは、控訴人も認めているところであるから、その後に昭和二十五年十二月二十三日附減額処分がなされても、これに対してはもはや不服の申立は許されないものといわなければならない。

されば控訴人の昭和二十五年十二月二十三日附減額処分に対してその取消を求める本訴請求は、被控訴人主張の如く不適法なものというべく、その欠缺は補正することを得ないものであるから、これを却下すべきものとし、之と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第一項により本件控訴を棄却すべきものとし、控訴費用に付同法第九十五条第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 宮本誉志男 裁判官 高橋雄一)

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